新中学1年 「どうしても身に付けたいこと」その1

3月からすでに始まっている新中学1年生の指導。入学に先駆けて勉強をスタートする意義の1つには当然「先取りのメリット」がある。特に新中1はまったく新しい環境に入るわけで、多感でデリケートな時期もあいまったプレッシャーは相当大きい。先取りである程度勉強を進めておくことには、今後を有利に運ぶという実利よりも、入学後の勉強に関するプレッシャーだけは少しでも小さくしておきたいという思いがある。

ただ、先取りよりも何よりも、新中学1年生の指導においてはできるだけ早くから徹底していきたい事項がある。その1つは「分からない状態で、モヤモヤした気持ちのまま進めない」ことである。要するに、「ちょっとでも分からなかったら質問する」ということなのだが、これはものすごく難しいことがらだ。

そもそも、学校であろうが塾であろうが、また集団指導であろうが個別指導であろうが、「勉強を進める」ということには教える側から教えられる側へのなにがしかの「圧」がはたらくので、程度の差こそあれ子供達は「駆り立てられる状態」にある。そこで生まれるのが「解かなきゃ、進めなきゃ」という前進気勢、有り体に言えば「とにかくやる→進める→答えを出す」という「分からなくてもやる・答えまで出す」という姿勢だ。

当然のことながらこれは間違ったやり方であって、分からなければ立ち止まり、質問をする必要がある。でもなぜか(「なぜ」の要因はある程度分かっているがここではスルー)子供達の多くは分からなくても分からないなりに、適当な理解のまま、間違ったやり方で進めてしまう。

例えば中1数学の最初の単元、正負の数。正負の意味や符号計算の考え方は奥深いものだが、それを差し置いてみても「ただの計算単元」とはできない要素が多々含まれている。小学校時代の計算ルール(計算の順序、工夫、小数、分数の計算)の確認からここで扱うルール(結合法則、交換法則)、累乗など、生徒達に課せられるハードルは高い。これらがきちんとできているかどうかをチェックする態勢(私は「執拗に」といっていいくらい途中式を徹底させる)でやるのは、ものすごい労力だ。「計算だから、やり方を教えればあとはやるだけ」なんてとんでもなく、細かいチェックや修正をしっかりしていく必要がある。

「ただの計算」だから、生徒達も「こんな感じでいいかな?」で進めてしまう。要するに「モヤモヤ」は放置され、間違ったやり方でどんどん進めてしまうということが頻繁に起こる。ノートチェックをして「!!!」となってしまうこともある(やり方が全部おかしいとか)。

「ただの計算単元」でも、この最初の単元から「モヤモヤは放置せず、しっかり質問」を定着させたい。そのためにはしっかりノートチェックをしてやり方を確認し、おかしなやり方は修正してやり直させるとともに、「質問する必要がある」ということを噛んで含めて説明していく。モヤモヤはすぐ質問!を繰り返し呼びかける。

今年の新中学1年生、小学校時代から在籍していた生徒達だけでなく、新入室の生徒達もそうした「モヤモヤで進めたらダメよ!しっかり質問!」という声がけや、いろいろな形での働きかけ、諭しに真剣に耳を傾ける。でもやらせてみると、「モヤモヤ」でやっていることが分かるやり方だったり、ただなんとなく、言わば惰性でやっていたりと、頭での理解と自分の行動が一致していない。でも、そういうものなのだ。そんな簡単に「正しい」やり方が身に付くなら誰も苦労しない。

小中学生の学習指導では、「いまここで身に付けさせたいことがら(学習事項・姿勢)」と「先に行っても身に付けることができることがら」とがある。学習に関する事項はできるだけ前者の姿勢でこだわりたいものが多いが、姿勢に関するものは、後者の視点でじっくり育てたいものが多い。ここで取り上げた「モヤモヤを放置せず質問する」という姿勢も、後者の「先に行って~」であり、また言うなれば、中学生なら3年間の勉強を通じて完成させていく姿勢でもある。もちろん可能な限り早くそうした姿勢を身に付けるのが理想だが、質問をするという行為にはそれを阻害するさまざまな「邪念」が入り込んでくるので、そう簡単には身に付かない。時々保護者の方から「○○なので自分からは質問するのが苦手で」のようなコメントをいただくこともあるが、○○は大抵表面的(にはそのように見える)要因で、実は質問をできない/しないのはもっと深くにある、別の理由であることがほとんどだ。事程左様に、質問姿勢というのは完成させるのに時間がかかる、勉強の根本に関わる取り組みであると言える。

中1生の勉強を「まだ何色にも染まっていない」というには、小学校6年間の積み重ねと影響は大きい。でも、心機一転、新たな勉強の初まりと位置づけ、これから「正しい色」を塗り重ねていくという意識を、我々指導する側と勉強の主人公である生徒達とが共有することには大きな意義がある。指導者次第で生徒達の意識と振る舞いは変わる。その責任を噛みしめながら新しい歩みを確実に進めていきたい。

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