「どうしても身に付けたいこと」その2

新中1生にどうしても身に付けさせたいことの2つめは、「参照力」だ。教師の説明したこと、主に学習におけるルールを生徒が参照し、自分で問題を解くという流れを「参照力」とイメージしている。「教師がルールを説明する→生徒達がそれを聴く・理解する→類題を解く→できる→さらに進める」という流れは、勉強のコアの1つと言っていいスタイルだろう。習熟し学年が上がれば、「教師が説明する」が「自分で教科書(教材)を読む」に置き換わって進めることも可能だ。

ここでは「ルール」というのが要諦。「ルール」というのは「抽象化された言語情報」であり、それをきちんと説明し、生徒達がそれを理解し、自身の学習作業に落とし込んでいくという流れを、是非とも作り上げたい。「ルール」という抽象化された内容を理解し、それを具体的な作業としてスモールステップで向上しながら勉強を進めることは、どの教科においても存在する核心的な学習スタイルだろう。

「参照力」とは、この「ルール」を頭に入れながら(参照しながら)、類題、そしてその先のレベルの問題へと進める力のことだ。新たな問題を考えるときはまず「ルールを参照」。分からないときも質問の前に「ルールを参照」。こういうルーティーン化が、「いま、その問題ができる」だけでない、「先に進んだ難しい問題もできる」や「自分で勉強を進めることができる」力につながってくる。

ただ、こんなふうに書くと、気をつけて指導すれば身に付けられそうに思えてくる(書いている私もそう笑)が、まったくそんなことはない。三歩進んで二歩なんとかの世界であり、前回も触れたように、まさに長期的な視点で取り組まなければならないことがらだ。

勉強における参照がなぜ難しいかといえば、抽象化されたルールの理解は、「言語による取り組み」だからだ。

小学生の勉強は「真似」でしのげる部分も多かった。ちょっと乱暴にいえば、示された例と同じふうにやってみれば、できてしまうということだ。小学算数、の関門である割合や速さも、パターン化(「くもわ」とか「みはじ」とか)して真似れば、問題はまあ解けた。そうした「解き方」を使わなくても、前の問題と同じように解けば大丈夫なことも多い。英語も基本は模倣と反復なので、理解の困難にはぶつからない。

中学生からの本格的な勉強には、真似だけでは通用しない。抽象化されたルールの理解と、その先の抽象的な思考を手に入れることが必要だ。抽象化とはすなわち「言語化」のことであり、「言語」によって表されたさまざまなルールを理解し、それをもとに考える力が求められる。語彙やその運用力も関係する、一朝一夕には成らない力だ。

中1数学はじめの単元である正負の数。正直、計算だけなら「慣れ」だけでなんとかなる単元でもあるが、ここでもしっかりと参照力を意識した指導をしたい。

教科書でも塾テキストでも、ここはしっかり抽象化されたルールが提示される。例えば加法なら「同符号の2数の和は、同じ符号をつけて、絶対値の和を計算する」などだ。

正直、この言葉を理解できなくても、上記のような頭の中での作業を経由しなくとも、「真似」だけでできるようにはなる。だが先につながる「学力」は身に付かない。ここから汎用性をもった勉強の力を身に付けるには、このルールを理解し、それをもとに計算をしていくという参照の作業が是非とも必要だ。上記の加法のルールなら、例えば「-3-6=」という問題をやる際、「-3と-6の加法だから同符号の足し算、同じ符号マイナスをつけて絶対値を足すだな、-(3+6)=-9 だな」というような脳内作業(もちろん途中式にも表す)を、ファーストステップとして必ず経由したい。

だから私は間違えたときは必ずルール=言葉を確認し、自分で言わせ、覚えさせ、ちょっと時間をおいてもう一度尋ねるなどして、「ルール(言葉)をもとに考える必要があるよ!」というメッセージを常に発していく。慣れだけで習熟させることは容易だが、これから泳ぎ出す勉強の大海を自力で進むために、しっかりと参照の習慣を身に付けさせたい。いや、決して一朝一夕にはならない力だからこそ、ここからそういう力を身に付ける歩みをしっかりと踏み出させたいと思う。

ここでは細かく触れないが、英語もまったく同様だ。中1くらいの英語なら真似だけでも大丈夫だし、現在の「物量英語」の流れは文法軽視の傾向が強く、とにかく習うより慣れろ式で進んでいる場面がどんどん増えている。しかし、英語を慣れで身に付けられるのは、英語に触れる絶対時間が圧倒的に長い(1日1~2時間では到底足りない)か、抽象思考に長けていて、分量をやりながら自身の頭で学習内容の整理ができる「頭のいい」生徒だけ、というのが私の見立てだ。まあここは英語指導について述べるエントリーではないのでこれ以上述べないが、英語こそ、しっかりとした「ルール思考、ルール参照力」を身に付けながら考えさせたい。

中学生の勉強のゴールは高校入試ではない。その先、高校でも勉強は続くわけだから、先につながる教え方、学習内容を意識するのは当然だ。ルールの理解とその参照による勉強はあまりクローズアップされないが、その姿勢の有無が今後の勉強を左右する根本的な取り組み方だと考えている。中学生の指導をするならば常に意識していきたい事項だ。

ただ、先につながる、先に行って大事なやり方だからといって、あまりに難しい取り組みだったり、また現在の成果が疎かになったりしてはいけないわけで、その点の案配にはいつも頭を悩ませる。ここで取り上げたルールの理解、その参照力というのは、生徒達によってはハードルが高いときもある。言葉での理解は入り口でありゴールでもあるので、相当に個人差が大きい。苦手な生徒には、ルールが分からなくてもできていればいいでしょ、という表情が見て取れることもある。こういうときは、皆にしっかり話をする。

「勉強はできるだけ短い時間の努力でよい結果を出したいもの。それは先生も理解しているよ。だからみんなを痛めつけるためにあれこれやらせてるわけじゃないの(笑) でも、『本当の勉強』の姿をねじ曲げて、インスタントに点数だけ取れればそれでOKなのかな? それでもいいという人が世の中にはいるかもしれないけれど、我々はそういうやり方はしない。きちっとしたやり方で、先に行っても通用する、先に行っても使えるやり方を手に入れよう。今この場でマルが取れる、今度のテストで点数が取れるだけでなく、自分が勉強をやる根本の力を鍛えるやり方を身に付けよう。この場だけでいい、というやり方よりはちょっと大変かもしれないけれど、それがみんなの勉強の未来を作ってくれるよ」。

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