よく言われることだが、成績を上げるための1つの方法として「できる生徒のやり方をまねる」がある。できる生徒の勉強への取り組みを分析してみれば、それは当然「勉強向きの振る舞い」であることはもちろんなので、それを自身の勉強(行動)に取り入れてみればよい、というわけだ。
これは小中学生のうちは極めて有効(高校の勉強は振る舞いの真似では対処できない)で、できる/できないは、そもそも勉強時間がどうとかやり方がどうとかいう以前に、「振る舞い」の差が大きい。あくまで学校の勉強レベルだが、小中学校に必ずいる「たいして勉強をやっていない(勉強時間がさほど多いわけではない)のに、成績がいい」というのは、(地頭がどうとかいうのは置いておいて)そもそもの振る舞いが「勉強向き」であることが多いと言えると思う。
そうした勉強向きの振る舞いというのはいくつもあるが、表題の「0.5歩先の思考」もそれにあたると思う。
できる生徒というのは、授業を受けているとき、教師の話の0.5歩先を考えている。教える仕事をしているとこれはとてもよく分かると思う。視線をしっかり前に向けるだけならしつければ皆やるようになるが、できる生徒は視線だけでなく、教師の話を受けて、その0.5歩先を考えている。
例えば中2英語、長文を読んでいてWill you~?(助動詞を使った表現)が出てきたとする。助動詞はすでに学習済み。演習もテストも十分やってある。それでも忘れるのが勉強なので、こういう時に我々は必ず発問する。「Will you~?ってどういう意味だっけ?」。まあこれだけなら普通すぎる発問で工夫がない。やはりここは「Will you~?は何を表す表現だっけ?→依頼表現」「はい、じゃあ依頼表現5つ全部出してみよう→Will you , Would you , Can you , Could you , Please」と進んでレファレンス力を鍛えたい(この5つも当然既習事項)。
0.5歩先の思考と私が考えるのは、ここでWill you~?が出てきた段階で、「あ、『依頼』だな、Will you , Would you , Can you , Could you , Pleaseの5つだな」と、ちょっとだけ先回りして考える姿勢だ。できる生徒は必ずこういう思考が起動しているし、「先生、覚えてるよ!当てて!聞いて!」という顔をしてこちらを見ている。
1歩ではなく0.5歩としたのは、1歩というのは「1歩先んじる」的に、先回りのイメージがあるからだ。まだ始まっていないことを先回り、先取りして進める姿勢が、私的には1歩先のイメージ。勉強ではそこまでの先回りは必要なく、今見たもの、聞いたものに対して「あれは○○だな」的に、参照なり、ルールの想起なりをしていきたい。だから「0.5歩先」が適当かな、と思った次第。「半歩先」だと口にしたとき、生徒達にちょっと伝わりづらい感じがする。
「そんなん、そもそも覚えていなければできないじゃん」という指摘があるかもしれないが、それはちょっと違うと思う。「0.5歩先を考えよう」という姿勢が生まれた生徒は、すでに「覚えている」。覚えたから答えられる、先を考えた思考ができるようになる、のではない。そういう考え方をしようとするから、そういう姿勢を心がけるから頭に入るし、「覚えている」状態になる。学習姿勢が学習の中身を充実させるのだ。勉強は「形から入る」が好結果を生むことが多いと感じているが、これもその1つの例だと思う。
やる気はあるが成績が伸び悩んでいる生徒のほとんどが、この0.5歩先思考はできていない。授業を聞く態度は、基本「待ち」。ボーッとしているわけではなく視線は前を向いているが、どこか受け身で、こちらが話している内容をそのまま聞いているだけ。だからこちらが発問しても、そこで初めて「ハッ」として思考が起動する。そういう姿勢では覚えるべきことは参照可能な状態で頭に入っていないし、当然発問に対してスムーズに答えられることはない。
授業で鍛えられなければ、授業内容はあまり頭に残らないものだ。勉強は後で復習して覚えるのではなく、授業で頭に入れるの姿勢が大切だ。重要なのは、塾で受け身的な姿勢だとすれば、学校でも同様(場合によってはもっと弛緩している)の姿勢、態度だということ。生徒達にとっては学校の勉強時間の方が長く、勉強の基本でもある。しかしそこが「待ち」の姿勢ならば、当然授業内容の習熟や習得は不完全になる。結果、定期テストの勉強などはゼロベーススタートになり、たいてい「時間切れ」となる。いわゆる「時間がなくて○○の勉強が足りなかった」というやつだ。決して悪い成績ではないが、もう少し取れないものか(具体的には、定期テスト5教科350点~いつも400点未満の生徒)という生徒は、授業を聴く姿勢に改善点があったりする。
生徒達にはこの話をよくする。「0.5歩先を考えよう」と呼びかける。特に中2,中3のそれなりに中学校の勉強に慣れてきた生徒は、成績が固定してきているので、こうした姿勢を身に付けることによって抜本改善を図りたい。授業で動かすのが私の基本的な考えであり、まずは授業の力で生徒達に変化をもたらしたいといつも思っている(今回は短くまとまりました)。