「忘れる」ことと「厳しさ」と

よく「厳しい指導」というが、その厳しさはさまざまだ。宿題や課題が多いことを厳しいということもあるだろうし、塾の様々なルールに対して罰則を設けたりすることを厳しさということもあるだろう。

進学塾Uineも地域では「厳しい」という評判をいただいている。私は挨拶をしないで教室に入ってきたら入り直させたり、何度注意しても改善の意思を見せないことがら(主に学習面)に対しては叱責する。最近は年を取ってきた(苦笑)ので以前のような居残りはほぼしなくなったが、終わらない課題があったりテストに合格しなければ補習や再テストはできるまでやる。こういうのが厳しいというのなら、まあ厳しい塾なのだろうと思う。

厳しさには批判も伴う。曰く、叱ったり厳しく言うのではなく、優しく諭した方が、道を示してやった方が成績が伸びる。脅して生徒を動かすのは邪道だ。また曰く、厳しく言って生徒が傷ついたらどうする、辞めてしまったらどうする、などなど。確かに、特に学習に関して言葉で強くはたらきかけるのは難しいし、生徒との関係性も場合によっては壊れてしまうかもしれない。

子供たちは驚くほどものごとを忘れやすい。濃密な毎日を送っているからだろうか、勉強で忘れてはいけないことがらがあっても、何度注意している悪癖も、翌日になったらコロッと忘れていることが良くある。だから中学生くらいまでで「勉強ができる」とは「忘れない」とほぼ同義であったりする(クラスに必ずいる「勉強していないのにできる生徒」というのは例外なく「先生の服装でもおしゃべりでも、何でも覚えている」生徒だ)。

進学塾Uineに通っている生徒はほぼ100%が「一所懸命やる素地はあるが、普通の生徒」。こういう生徒はきちんとしたやり方を教え、勉強時間を確保すれば皆成績が伸びそうなものだが、実は違う。乱暴な整理だが、私の考えでは成績を伸ばす要素は順に①もともとの「頭のよさ」 ②勉強が大好き ③一所懸命やる があり、それらの相乗によって形成される。だから①と②が欠けていて③だけあってもほとんど伸びない(もちろん①と②がまるきり欠けているなんてことはないが)。

一所懸命にやっている生徒でも、すぐに忘れる。熱心に自習に来て勉強しているのに、すぐに忘れる。こちらも授業であれだけ繰り返したのに、丁寧に解説したのに、何も覚えていない。きれいサッパリ忘れている―塾講師であれば誰でも経験する「絶望」的な瞬間―。

そして、生徒たちは「忘れてしまったことも忘れる」。忘れてしまったというその重い事実すら、すぐに忘れてしまう。

この忘れることの軽重、忘却度合いの高さ低さが、生徒一人ひとりの学力上限を決定している。努力している生徒の定期テストの5教科得点は何十点も乱高下することは少ない。だいたい「いつもこのくらい」のところに収まる。それは忘却度合いに勉強が大きく左右されているからだ。

なんとか忘れないようにさせたい。そのために私は、時に厳しく働きかける。授業/指導技術的な方策は尽くした上で、それでもなお「忘れる」ことに対し、私は強い言葉を発する。忘れたら勉強は終わりなのだと。忘れてはいけないことがらは、忘れないように、自分の全力の気持ちを込めて、頭に入れなければならないのだと。生徒たちが「忘れてしまったことを忘れる」ことがないように、生徒たちの頭に、そして気持ちに、「忘れてはいけないのだ」という重い印を穿つために。

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