定期テストの指導あるいは「自己管理能力」

2期生の墨田区では、先週すべての中学が中間テストを終えた。中1生にとっては初めての中間テストであり、どのように臨めばよいのか不安や手探り感が大きかったはずだ。私としても、今後の学習姿勢を作っていく上で大切な定期テストであり、いろいろと働きかけを工夫しながら対応してきた。

中学生の定期テストというのは、煎じ詰めていってしまえば「自己管理能力勝負」の側面が強い。精神年齢が高く、自己とやるべき課題を俯瞰して、中期の勉強をきちんと管理できる生徒は結果を出せるが、まだまだ幼く未熟な精神面を抱え、目先の娯楽や欲求に打ち勝てず、勉強を後手に回してしまう生徒は当然ながら結果が出ない。もちろん、そもそもの学習適性(能力)や中学受験経験の有無(テスト慣れ、勉強慣れ、経験値)によっても当初は大きく差がつくが、やはり自己管理に長けている生徒の安定感は3年間ほぼ揺るぎない。

そもそも、定期テストの勉強というのはものすごくハードルが高い。まず「試験範囲表」を見て(読んで)、やらなければならないことを自身で把握しなければならない。ただ、範囲表には「教科書ページ」「ワークページ」「プリント範囲」などの「範囲」は書いてある(時々ページを書かない先生もいる。「やったところすべて」みたいな書き方だけ。日々自覚的に取り組むことを促す意図なのかもしれないが、中学生の発達を考えれば不親切だ)が、それをどのようにやればよいかの「方法」は書いていない。小学校ではこういったテストはやってきていないので、多くの生徒は「これ、どうやればいいの?」状態になる。

範囲が分かったところで、範囲表が配られて(うちの地域だと大抵テスト3週間を切って2週間前になるまでに配布される)、そこからテストまで、5教科(9教科)をどのような配分で、1日どのくらいの量をやればよいのか、初めは見当もつかない。学校には「学習計画」的なものを日々提出することになっているが、よく分からないのでなんとなく適当に記入して提出してしまう(そもそも学校は、勉強方法も教えないが、計画の立て方もレクチャーしない。「計画的に予定を立てましょう」とか書いてあるけど)。試験前だからといっても、試験1週間前までは部活もあるのでなかなかテストモードにはなれない。それに、疲れたら昼寝もしちゃうし、スマホもいじりたいし、ゲームもやりたいし、見たいテレビもあるしで、なかなか自律的に日々の学習を積むのは難しい。

ここで塾の出番となるわけだ(笑)。塾が学校の試験範囲を把握し、ワークの作業を指示する。また塾によっては、学校準拠ワークを配布しており、その取り組みもきっちり管理する。回転数と期日を細かく指示するところもある。はたまた、いつもの批判だが、「定期テスト過去問」まで配布して、インスタントに得点できる手法を提示する塾もある。また、試験前は指導時間を増やし、半ば強制的に生徒達を勉強に動員する(これはうちもやっている)。

生徒達は塾に通うことで、定期テストの取り組みの難しさを、少し(場合によっては多分に)軽減できることとなる。要するに、上で述べた「試験範囲の把握」「中期計画」「時間管理」などの自己管理の難しさは塾に外注し、勉強の努力に傾注する形が取れるということだ。

学力とは自己管理能力が強く反映するものであり、それをどのように養っていくかも塾の大きな役割だと、私は考えている。一方で保護者の方のご期待は、自己管理云々という大きな話はともかくとしてさしあたって目の前の定期テストの得点向上であり、それに応える必要性も痛感している。そしてこの2つを実現するためのアプローチは、背反する。

自己管理能力は性格や環境によってこれまで培われてきたものであり、それを塾という小さな存在が変革していくには、遅々とした歩みにならざるを得ない。緩急硬軟を織り交ぜ、自己管理を促すツールを使って働きかけ、少しずつ前進していく類の指導になる。中1からの指導で中3の受験期にしっかりとしたものができあがればよいが、生徒によっては間に合わないこともある。間に合わずともやってきた取り組みが種となり、高校進学後に花開く生徒もいるにはいるが、間に合わないのなら指導の失敗とみられても仕方がないと言える。いずれにせよ、すぐには成果が出ないのが自己管理能力へのアプローチと言える。

目の前の定期テストの得点を上げるには、とにかく塾の仕事を増やすのが手っ取り早い。先に挙げたワークの管理、塾ワークの指示などを強めにかければ、得点は上がる。過去問を使わずとも、過去問を分析して出そうな問題を「予想問題」などとして事前に解かせれば、効果的な対策となる。こうして定期テストの得点が上がれば生徒は嬉しいし、保護者の方にも喜んでもらえ、塾の評判も上がり、いわばwin-win-winとなる。塾の関わりを強く深くすればするほど、定期テストの成果は上がるわけで、こうしたテストアプローチには即効性がある。

ただし、このやり方が行き過ぎたり、学年が進んでも強い塾がかりから離脱できないと、不利益は生徒本人に返ってくる。つまり「自分で管理して勉強できない生徒、いっちょ上がり」状態となる。

高校入試までならこういう塾がかりの強い指導の弊害は目立たない。それこそ、定期テスト対策だけバッチリして、内申点を稼いで、私立第一志望推薦や都立推薦合格狙いで合格できてしまえば、ネガティブな側面は見えないで高校入試まで終えることも可能だ。また、都立高校入試くらい(偏差値でいえば50台後半が限界かな?)であれば、これも塾の「対策」でそれなりに得点できるようになる。こちらも、強い塾がかりで合格できれば、それは「おめでとう!」で終わるわけだ。

高校入学後は、塾がかりの指導は基本存在しない。学校ごとに使用する教科書、副教材が異なり、進度やカリキュラムも大きく異なる。そうした生徒を集めて個別に対策を練れる塾はない。畢竟、自分で考えて勉強する姿勢が重要になるわけで、そこまでどれだけ自己管理能力を磨いてきたかが重要になる。大学入試はまさに、長期的な計画立案、日々の学習内容の管理、自律的取り組みなどなど、「自己管理能力」次第だと言っていい。

中学時代に勉強に試行錯誤し、自己管理を磨く努力をしなかった生徒、つまり塾がかりが強い状態で向上入試を終えた生徒が、大学受験時にとてつもない苦労をするのは想像に難くない。というか、これまでこの仕事をしてきてそういう生徒をたくさん見てきた。特に予備校に出講していた時は高3生と既卒生が指導対象であり、それまで自己管理を磨く努力をしてきていないと思われる生徒も、それなりに多かった。質問対応をしたり勉強の相談を受けたりして、「ああ…」と嘆息するしかない生徒。私の関わりは週1回だけなのでどうしてあげることもできない無力感。こういうのが辛くて予備校に行くのをやめた側面もある。

先に背反と書いたが、自己管理能力を磨くアプローチと、定期テストで点数を取らせる関わりの両立は難しい。私は前者を重視しながら得点が低い生徒には塾がかりを増やしていくやり方を取っているが、塾の関わりを増やす指導は、やはり副作用も大きい。例えば多く塾に来させてワークをやらせた結果、特定教科の得点は上がったが他の教科の点数が下がってしまった、などはよくある。自分で勉強を管理できないので塾に来させているが、塾に来ていない時間はほとんどやらない(管理できない)ので、結果的には総合得点は上がらず、自己管理への努力もしていないので、何のプラスにもなっていないことになる。

相変わらず文章が長い()ので、私の定期テストへの指導アプローチは別の機会にするが、保護者の方には入塾面談、また入塾後の面談その他を通じて、「自分で勉強できる生徒になれるよう、指導します」と申し上げている。塾がなくても、というのは言い過ぎだが、塾の関わりがミニマムでも自分で力強く勉強できる生徒を育てたい。たとえ時間がかかろうとも、自分で計画を立て、それをしっかり遂行し、自身の不足を発見してそれを補う努力ができる生徒になれるよう、力を尽くしたい。こういう生徒こそが大学受験、ひいてはその後の人生でも、力強く道を拓いていけるはずだ。そのためにはどういった関わり(もちろん、自己管理を促していくさまざまなツールの工夫も含めて)をすべきなのか、日々考え、悪戦苦闘しながら、生徒達と向き合っている。

さてさて、今年の進学塾Uineの中1生、その自己管理がものすごくヘタ(苦笑)。試験勉強が始まって、「…こりゃあちょっとまずいのでわ…」と天を仰いだ(ホント)。もうね、私が配布している試験勉強の管理ツールの初手からできない。ちゃんと「ここには、これこれこういうことを、こうやって書くんだよ!」と説明したのに、誰もやっていない(苦笑)試験勉強の最中も、私の指示と違う作業をやりまくってずいぶん注意されたりもした。そのくせちゃっかり点数は取ってきていて、これで調子に乗らないか心配である。まあ、まだ始まったばかり。ここからどのように導いていくのか、責任は重いがやりがいがある。

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