表題は高3生が提出する、夏期講習中の出席予定時間のことである。進学塾Uineの高3生は原則として毎日来塾して自習室でそれぞれの演習を行う(そこに適宜授業が入る)が、夏期講習中は学校がないので大抵の生徒は特に指示をしなくても毎日9:30~22:00の予定で来室する。指示をしなくても、というのはちょっと私の気取りが入っていて(笑)、多くの生徒は中学時代から在籍しているので、「長期休暇は朝9:30から開始、塾は22:00まで開いている(だからやることがあるなら22:00までやる)」というのが、言わば習い性、ルーティーンになっている。だから自ずとそういう予定になる、というのが本当のところだ。
大学入試の勉強は文字通りきついものだ。忙しい高校生、高3までの時間を勉強だけに費やしてきたわけではもちろんなく、さまざまな青春の謳歌がそこにはあった。ただ、スタートに差こそあれ、ここから本格的な受験スタートとしたら止まるわけにはいかない。可能な限り勉強に時間を費やし、なすべき努力を重ねなければならないのは言うまでもない。だから9:30~22:00(昼食、夕食の時間を抜けば正味の学習時間は10時間くらいだろうか)は決して長くはなく、当たり前、普通の学習時間となる。
勉強というのは、「やらない」か「ほとんどやらない」が一番楽な状態と言える。自分が「何ができない」 「何をやらなければならない」を把握していないからだ。まだまだ弱い自分が「これから頑張ろう」 「明日から本気出す」的な中身のない前向きな意識だけに包まれている状態。ここに安住できるならどれだけ楽なことか。
いざ真剣に勉強をし始めるとそこは文字通り茨の道となる。あれもできない、これも分からない。不安と焦燥、そしてこれまでの無為に対する後悔。やればやるほどつらさは増す。受験科目を削ろうか、推薦もやってみようかと、つらさから逃れる思いも浮かんでくる。真面目な取り組みは学力向上に先だって、己の未熟さを客観視する眼を生徒たちに与えてしまう。
ただ、このつらさを超えなければ何も手に入らない。いや、超えるというのはほとんどの受験生にとっては難しいことだ。つらさを抱え、それを言わば飼い慣らしながら、足取りは重くても前進する。その歩みが大学受験への道程だろう。前進することでしか、不安と焦りは最小化できない。
今年の高3は部活に力を入れていた生徒が多い。高2までは私の「叱咤激励(笑)」も多かったと記憶している。高3になって少しずつ部活が終了し本格スタート(本当はもっと早くスタートさせたい!)したが、本気になった生徒ほど、程なくつらさを訴えるようになる。それぞれの毎日の学習記録には「時間がない…」「あれだけやったのにもう抜けてしまっている…」「復習しか出来なくて不安」などの文字が連なる。やっている者だけが感じる、「本物の」不安と焦燥。
夏期講習中のある日の授業。余談がてらちょっと軽く(本当はタイミングを図っていた)話を振ってみた。
「みんな一所懸命やり始めて、かえってつらかったりするでしょ。やればやるほどあれもできない、これも忘れた、って。それに、夏休みになって一日中勉強しているけど、それでも全然時間は足らなくない?(みなウンウンとうなずく)」
「学力を構成するのは、単純化すれば(能力)×(学習時間)となる。能力については言ってもしかたがないけど、時間はそれぞれの努力で積み上げられるでしょ。じゃあ時間をかけるしかない。」
「今みんな9:30~22:00の予定で勉強している。絶対的には多いかもしれない。文字通り一日中勉強しているわけだから。でも感覚的には足りないでしょ?(みなウンウン) それは、勉強時間の累積とすればまだ少ないからよ。高1,高2、いや、小中学校からつながっている勉強として、やはりここに至るまでの学習がどこか物足りなかった。今まではそれが見えなかったけれど、本気でやってみるとそれが見えてしまう。だから今それぞれに『足りない感』がある。」
「受験勉強で『トイレに暗記ものを置いておく・貼り付ける』 『お風呂に入るときに暗記ものを持って入る』とかあるよね。電車の中で単語を勉強するなんていうのもそういう類。時々こういうのを否定する人がいる。『トイレや風呂は休憩でいい』 『電車で単語やっても集中できない』とかね。そういう『ついで』で勉強するより、別の時に時間をとったり、集中して取り組めばいいという理屈。でもそれは間違っている。」
「トイレや風呂で、電車の中で勉強しようって人が、その他の時間を雑に使っていると思う?そういう意識を持った人は、時間が取れるときは必ず勉強に費やしているし、集中している。だから、そういう姿勢を否定する人との差は必ずつく。」
「ちょっと前から、8:00~22:00でやる人が出てきた。こうすると、これまでより1時間30分勉強時間が取れるわけでしょ。10日で15時間。これは大きいよな。帰宅してから更に1時間30分やるのは難しいとしたら、やはり朝動くのがベター。」
「今みんな一所懸命やっているのは疑いないけれど、今の9:30開始を8:00開始にしてみる。なんとなく塾のルーティーンとして9:30スタートになってるけど、それを変えるというのも、足りない感を解決するための1つの方策ではあるよね。10日で15時間を『そんなの、オフの日を作らなければトントン』って考える?さっきの話と同じで、『なんとかして1時間30分を稼ごうという人が、完オフつくって伸び伸びしちゃうのか?』 そんなわけないってことよな。」
こんな感じの話をしたところ、表題にあるように、出席予定時間がほとんどの生徒で8:00~22:00となったという次第。ルーティーンというのはそうあることを疑わないからルーティーンなわけで、それを変えるのはエネルギーときっかけがいる。今回は8:00入室の生徒が出たところで「ここだ」的に話をもっていったわけだが、それぞれの変化を促す結果となった。もちろん、時間だけを増やせばいいというものではないというのは指導者としては肝に銘じているところではある。受験までに残されたm時間は少なく私自身も焦りがないわけではないが、着実に前進していく。