「成績爆上げ」

塾の広告その他で「定期テスト○○点アップ!」「5教科□□□点→○○○点へ!」的な「爆上げアピール」はよくある。偏差値でなく定期テストの点数であることには我々にとっては自明の理屈があるが、外から見る方にとっては、とりあえず点数がアップしているのは大きな学習効果であると写るはずだ。だから多くの塾は、こうした「成果」を教室の内外に張り出し、自塾の指導をアピールする。

ただこの「爆上げ」は中身がそれこそさまざまで、それをご覧になる保護者その他の方々には、その内実に思いをはせていただきたいと思う。勉強というのは極めて個的要素が強く、ケーススタディは指導者の経験値として蓄積される以外には参考程度にしかならないことがほとんどなのだ。成績が向上した要因に違いがあると理解することは、生徒を伸ばす方法も一様ではないことを意味する。

爆上げの中身、その要因を考えてみると大きく3つに分けられるのではないか。

1つは、これまで正しい学習機会や勉強時間が取れていなかった生徒が、塾に入ることできちんとした勉強時間、習慣がついたケース。多くの爆上げはこのケースだと思われる。学校の授業について行けないわけではなく、理解はきちんとできている。ただ、部活中心だったり中学に入ってからの勉強法や時間の取り方がよく分からなかったりする場合、定期テスト前でも時間や方法の面で上手に取り組めないことが多い。これが塾に入ることで、勉強時間を確保し、正しいやり方を教えてもらえたりすると、一気に成績がブレイクしたりすることがある。

うちでは以前こんなケースがあった。中3の夏に入塾した生徒。うちは中3での進み方が速いので中途からお引き受けできないことも多いのだが、部活を引退したので勉強に傾注したいという強い気持ちに感じる形で指導を開始した。体験入塾時から礼儀正しく受け答えもきちんとしていて、こちらの説明にはしっかり目を見てうなずく真面目さに、これは伸びると予感したことを思い出す。

うちに入塾前は個別指導塾に少しだけ通っていたが、定期テストは5教科300点くらいでポテンシャルが発揮できているとは言いがたい点数だった。それがうちに入塾して最初のテストでは430点オーバー。報告する声が震えていた。「こんなにいい点数を取ったこと、ないんですけど…」。うちの「水が合っていた」ということなのだろう。その後も順調に勉強を重ね、第一志望の高校に合格、高校部も引き続き在籍してくれて、大学も無事に第一志望に合格した。

この生徒は、元々伸びる要素が大きかった。うちに入る前は部活に時間とエネルギーが取られていたわけで、部活引退を機にそれがしっかりと解放されたということだろう。生徒もご家庭も塾替えが吉と出てハッピー、私としてもすぐに結果が出てホッと胸をなで下ろしたというところ。どの塾でもこうした成績向上は多いと思われ、ある意味幸運な巡り合わせと言える。

2つは過去問などの裏技を使うケース。過去問は本当に手っ取り早く定期テストの点数が伸びる。伸びる要素に乏しくとも、過去問を繰り返させることで大抵は結果に結びつく。昨年は中学校の教科書改訂があってこれまでの過去問が使えない部分があったかもしれないが、今年は昨年のものが使えるのでそういう指導もやりやすいだろう。まあ、私はいつも過去問には批判的だし、ここではこれ以上は触れない。おしまい。

3つは、なかなか伸びない要因を抱えた生徒が、塾での指導に根気よく取り組み、自分の弱点を克服しながら成績を向上させるケース。どの生徒の成績向上も嬉しいが、我々としてはもっともうれしさを感じる局面であり、それが「爆上げ」と言える大幅アップなら喜びもひとしおだ。難関校、上位校の合格も嬉しいが、伸びない要因を克服する後押しができたことも同じくらい嬉しい。長年塾講師をしてきた甲斐があったというものだ。

今回の定期テストでこうした爆上げがあった(この話をしたかったためのエントリー!)。当該生徒、約1年前に入塾してきたが、成績は平均のちょっと下くらいで定期テストは5教科300点に届かない。うちに入る前も通塾はしていたが、基本的な勉強姿勢(例えば、「ルールを確認する・覚える→それを使って問題を解く」という習慣)ができあがっておらず、お引き受けした際はじっくり時間をかけて取り組みますと保護者の方にも説明した。半年ほどはルール通りに問題を解くこと、具体的には英語なら文法ルールを覚えそれを使って英文を作るだとか、数学なら分からなければ必ず質問して、ルールに則って解くとか(それまでは分からなかったら分からないまま適当に問題を解いていた。勉強が苦手な生徒がやってしまうやり方だ)を徹底した。

半年くらいたってそうした姿勢は徐々に矯正されてきたが、今度はルールがなかなか定着せず学習能率が上がらない。これは前々回のエントリーでも触れた「言葉の力」の問題だった。質問はまとまった言葉ですることができずたどたどしい(もちろん、きちんとした言葉で質問することは簡単ではない。勉強が苦手な生徒はおしなべて質問も下手だ。ただ、ここに向上の芽がある)。読めない漢字も時々ある。加えてちょっと思い込みが強く、自分でこう、と考えるとそれが間違っていてもなかなかそこから離れられない。一所懸命なのだが、それが成果に結びつくことを阻害する要素がいくつもあった。そこからは、とにかく丁寧な言葉で質問させ、私も言葉での関わりを重視し、やり取りの中で成長を促すことを試みた。一朝一夕にはならなかったが、少しずつ少しずつ、質問とレスポンスがクリアになっていった。

前回の定期テストが約280点、今回のテストが360点。平均よりも約40点も上回り、大幅なジャンプアップ。年度初めのテストは点数が取りやすいとはいえ、平均点と比較すれば力を付けたことは明らかだ。1年以上の地道な努力が実を結び始めたというところだろうか。この生徒が伸びた一番の要因は、当たり前だが、素直で真面目、私の指示を真剣に受け止め、努力したところに尽きる。例えば質問することを厭う生徒は少なくない。我々は質問でのやり取りを通して生徒が理解を深め、力が底上げされていくことを企図する。だから質問されてもそっくりそのまま教えてしまうのではなく、発問(逆質問)したりヒントを与えながら自力で考えることを促したりするが、これを面倒くさがってしまう生徒が少なからずいる。質問を嫌がることは自ら伸びる機会を閉ざすことに他ならず、非常に残念なことである。

この生徒は、先に触れたようにちょっと言葉の扱いが不得手(要するにちょっと口下手)なので、質問の際に私に言い直させられたりすることも多かった。質問が的外れで諭されることもあった。でも、分からないものは必ず質問するという姿勢を貫いた。発問にしっかり反応しようと、ルールを覚えることにも意識を傾けてきた。今回の定期テストも、最も多く自習に来て最も多く質問をしたのはこの生徒だった。成績が伸びるのは必然といえば必然。我々の力ではなく、自身の意思の力で成績爆上げとなった。

以前合格に関するエントリーでも似たことを書いたが、生徒の成績向上(「爆上げ」)をあまり広告的に使いたくないのは、こういう内実の違い、そこに込められた苦労や努力の過程が生徒ごとにあるからだ(「あまり」と書いたのは、私もこういうエントリーで自塾の生徒のことを書くのは十分「広告的」だから)。偉そうな理想論ばかり言っているわけだが、今回は1年以上苦労した生徒がしっかりと成果を残した喜びを記したくこのエントリーを書いたということで、どうかご容赦いただきたいと思う。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次
閉じる